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最高裁判所第一小法廷 平成元年(あ)821号 決定

本籍

東京都品川区豊町一丁目一二三一番地

住居

同世田谷区桜丘三丁目二九番三三号

シティハイム桜丘二〇二

無職

舟越則夫

昭和一六年一一月二〇日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、平成元年七月三日東京高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立があったので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人白取勉の上告趣意のうち、憲法三〇条違反をいう点は、原審において主張、判断を経ていない事項に関する違憲の主張であり、判例違反をいう点は、所論引用の判例は事案を異にし本件に適切でなく、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号、一八一条一項本文により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 佐藤哲郎 裁判官 角田禮次郎 裁判官 大内恒夫 裁判官 四ツ谷巖 裁判官 大堀誠一)

○上告趣意書

平成元年(あ)第八二一号

被告人 舟越則夫

右の者に対する所得税法違反被告事件の上告趣意は左の通りである。

一 昭和五七年及び昭和五八年における所得税法及び地方税法の租税制度は憲法に違反する。

被告人は昭和五七年分の所得金額が七一〇九万三〇八三円あったので所得税三八一〇万八八〇〇円を支払うべきであるとされ、又昭和五八年分の所得は一億一八九一万三六五四円あったのだから所得税七二六〇万五〇〇円を支払うべきものとされたのである。

右の税率は、昭和五七年にあっては五三・六パーセントであり、昭和五八年にあっては実に六一パーセントにもなっているのである。

そして、右の税額を基準にして、翌年には住民税がほぼ同額程度(少々少い金額ではあるが)課税され、又事業税もかなりの額が課税される。又、予定納税として税額の半額程度を課税されるのであって、五七年に納税した残りの金額は翌年にはほぼ全額税金でとられてしまい、五八年の納税後の金額は五九年に支払う税金にも足りなくなるのである。

即ち、現在の日本の租税大系は、一年おきに収入のある人間にとって、課税所得の金額が二年分の税金にもっていかれてしまい(六一パーセントの場合は、予定納税も支払えないで延滞金迄とられることになる)生活費すら、自分の所得でまかなえなくなるのである。

憲法第三〇条は、国民に納税義務を定めているが、右の如き重税を予定しているものではない。

一年おきに収入のある人は二年目は無収入なのだから税金はゼロだと思ったら大間違いで予定納税をとられるのであって、支払わなければ延滞金迄徴収されるのである。やむを得ず借金をして納税すれば、借金の利子をとられることになる。やっと予定納税した金額が返還されるのは、三月になって申告をしたあとの事になる。その間は借金で食費をまかなわなければならないのである。

右は所得金額が多くなれば多くなる程、税率が上るため、翌年度にとられる予定納税額が多くなり、納税後の残金が少なくなるため、住民税と予定納税を支払うと事業税を支払う金が無くなるということになる。

右の如き酷税を憲法が予定しているとはとうてい思えないのである。

その結果、昭和六三年には大幅な税制の改革が為されたのであって、現在は昭和五七年及び五八年の所得税とは税率も異なっているのである。

以上の次第で原審の判決は破棄差戻しされるべきである。

二 原審の審理手続は最高裁判所の判例に違反する。

原審に於て、弁護人の交替が行われ、新弁護人が控訴趣意補充書を提出し、陳述しようとしたが、裁判所は陳述を許さず、職権による事実の取調べもしなかった。弁護人の主張はいずれも記録をみれば取調可能なものであり、最高裁判所昭和四七年一月一八日判決の判例の趣旨からみても裁判所は、職権による事実の調査を為すべきものであったのである。

右の取調を為すことなく漫然と控訴棄却をした原審判決は、最高裁判所の判例に違反するものである。到底破棄を免れないものと思料する。

平成元年九月二七日

右弁護人 白取勉

最高裁判所第一小法廷御中

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